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東京地方裁判所 平成4年(レ)17号 判決

亡青木光津訴訟承継人

控訴人

青木雪子

亡青木光津訴訟承継人

控訴人

青木稔

右両名訴訟代理人弁護士

神谷岳民

被控訴人

有限会社東新企画

右代表者取締役

北本信

右訴訟代理人弁護士

戸田孔功

田中学武

主文

原判決を次のとおり変更する。

(本訴)

一  控訴人らから被控訴人に対する新宿簡易裁判所昭和六一年(イ)第一〇八号事件に関する執行力ある和解調書第八項のうち「又は」以下に基づく強制執行はこれを許さない。

(反訴)

二 被控訴人は、控訴人らに対し、別紙目録記載の建物を明け渡せ。

三 被控訴人は、控訴人らに対し、平成二年八月一日から右明渡ずみまで一か月金五〇万円の割合による金員を支払え。

四 控訴人らのその余の反訴請求を棄却する。

五 訴訟費用は、第一、二審を通じて三分し、その二を被控訴人の負担とし、その一を控訴人らの連帯負担とする。

六 この判決は、第三項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一原判決を取り消す。

二被控訴人の本訴請求を棄却する。

三主文第二項と同旨。

四被控訴人は、控訴人らに対し、平成二年八月一日から右明渡ずみまで一か月金一〇〇万円の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、起訴前和解の形式で締結・更新された建物賃貸借契約において、執行条項の効力、一時使用の賃貸借であるか否か、更新拒絶における正当事由の有無及び用法違反による信頼関係破壊の有無等が賃貸人・賃借人間で争われた事件である。

なお、本件控訴審審理中の平成五年一月八日、控訴人青木光津(以下「亡光津」という)の死亡により、その相続人青木雪子(以下「控訴人雪子」という)及び青木稔(以下「控訴人稔」という)の両名がその地位を承継した。

一当事者の主張の要旨

1  被控訴人(本訴原告、反訴被告)

新宿簡易裁判所昭和六一年(イ)第一〇八号事件において成立した和解調書(以下「本件和解」という。)第八項は借家法六条に反して無効であるから、本件和解調書の執行力の排除を求める。

2  控訴人ら(本訴被告、反訴原告)

(一) 本件和解による賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)が一時使用のための賃貸借であることは明らかであり、その期間は満了した。

(二) 亡光津は、被控訴人に対し、平成二年一月下旬、自己使用を理由として、期間満了後に本件建物を明け渡すよう通知し更新を拒絶した。

(三)(1) 被控訴人は、二度にわたる用法違反を行い本件賃貸借契約における信頼関係を破壊した。

(2) 亡光津は、被控訴人に対し、平成二年一一月二八日送達の本件反訴状及び平成四年五月二六日到達の内容証明郵便をもって、本件賃貸借契約を解除した。

二本件の争点

1  本件賃貸借契約は、借家法八条に定める一時使用の賃貸借として同法の適用が排除されるか。

2  亡光津及び控訴人らが、本件建物での洋書店営業を再開したいとの理由により本件賃貸借契約の更新を拒絶したことは、正当な事由ある更新拒絶に該当するか。

3  被控訴人が行った花屋営業及びおでん屋営業は、本件賃貸借契約に定める用法違反として賃貸借契約における信頼関係を破壊したか。

第三争点に対する判断

一争点についての判断をするにあたって、まず、全体の事実関係について検討するに、原判決の事実摘示中の争いのない事実、証拠(〈書証番号略〉、原審証人青木雪子、原審及び当審における被控訴人代表者、当審における控訴人雪子)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

1  控訴人稔は、昭和五五年一〇月ころから本件建物において女店員を雇い洋書店を営んでいたが、経費がかさむばかりで利益が上がらないことから、昭和五七年春、閉店することとし、以後、控訴人らは本件建物を空家にしていた。

2  そのころ被控訴人は、新宿駅東口の都里一ビルの四階においてサラリーマン金融とタイアップして不動産仲介業を営んでいたものであるが、賃料が高い割には営業成績が芳しくなかったことから、本件建物は立地上、交通至便で、周辺に飲屋が多いことからホステス等の客足も多く、さらに一階であることによる有利さもあって、不動産業にとっては最適の建物であると判断し、本件建物を賃借したいとの希望を持つに至った。

そこで、当時の被控訴人代表者早坂稔(以下「早坂」という。)は、被控訴人の実質的オーナーである大石政博の指示により、昭和五七年四月一四日、控訴人らの居宅を訪れ、控訴人雪子に対し本件建物の賃借を申し入れた。

3  ところで、控訴人らのもとには、当時、被控訴人のほかにも数件の入居申し入れがあり、控訴人雪子としては不動産業者の被控訴人に不信の念を抱いており本件建物を貸すつもりはなく、右申し入れを拒絶してきたものであるが、早坂の再三にわたる来訪、懇請に負ける形で、被控訴人が四年間という期間を忠実に守って期間満了後に明渡すことを確約したこともあって、同年七月半ばころ、賃貸を承諾するに至った。

4  そこで、控訴人らは弁護士に相談したところ、契約に際し、期間満了後のトラブルを避けるためには、執行力を有する起訴前和解の形式が望ましいと言われ、その方式によることを被控訴人に申し入れたところ、早坂も本件建物を借り受けたい一心でこれを了承した。

そして、控訴人ら及び被控訴人は、同年九月四日、申立人を控訴人ら、相手方を被控訴人として左記条項による起訴前和解(新宿簡易裁判所昭和五七年(イ)第五八号)を成立させ、控訴人らは被控訴人に対し、本件建物を引き渡した。

(一) 賃貸借期間は昭和五七年八月一日から昭和六一年七月三一日までの四年間とし、同日限り合意解除する。

(二) 賃料は一か月三〇万円とし、原告は毎月末日限り、その翌月分を控訴人ら方に持参又は送金して支払う。

(三) 被控訴人は敷金(保証金)として、金一一〇〇万円を控訴人らに預託するが、これは無利息とする。右預託金は、被控訴人の明渡しのとき、清算し返還するが、四年間の建物使用による損害補償として、その一割五分(金一六五万円)を差引く。

(四) 被控訴人が控訴人らから本件契約を解除されたとき、又は右(一)の昭和六一年七月三一日合意解除によって契約が終了したときは、控訴人らに対し、本件建物を原状に回復して明け渡す。

5  なお、右契約締結に際し、控訴人雪子は、早坂に対し、和解条項に従って四年経ったら出てもらうことを確認している。

6  昭和六一年七月三一日の右賃貸期間満了日ころには、被控訴人は契約の更新を望んでいた。

他方、控訴人らは、当初は本件建物での洋書店の再開を希望し、更新を拒絶するつもりでいたところ、亡光津の体調が急変し、一時は肺癌の疑いがあるという診断が下されるほどであったので、洋書店再開を断念して契約更新を了承するに至った。

7  しかしながら、控訴人らは、右契約更新も先の契約締結時と同様、起訴前和解の形式を取ることにより、明渡し履行を確保することを希望し、控訴人ら及び被控訴人は、同年九月四日、申立人を控訴人ら、相手方を被控訴人として左記条項による本件和解を成立させた。

新宿簡易裁判所昭和五七年(イ)第五八号により成立した和解条項を左記の通り更新する。

(一) 控訴人らは被控訴人に対し、本件建物を賃貸する。(第一項)

(二) 賃貸期間は昭和六一年八月一日から昭和六五年七月末日迄の四年間とする。(第二項)

(三) 賃料は一か月金三〇万円とし、被控訴人は毎月末日限り、その翌月分を控訴人ら方に持参又は送金して支払う。なお、被控訴人は昭和六三年七月三一日限り更新料として金七〇万円を控訴人らに支払う。(第三項)

(四) 被控訴人は敷金(保証金)として、金一一〇〇万円を控訴人らに預託するが、これは無利息とする。右預託金は、被控訴人の明渡しのとき、清算し返還するが、四年間の建物使用による損害補償として、その一割五分(金一六五万円)を差引く。(第四項)

(五) 被控訴人は本件建物を事務所として使用する。(第五項)

(六) 被控訴人は左の行為をしてはならない。(第六項)

(1) 本件賃借権を第三者に譲渡・転貸・共同経営・経営委任等一切の行為

(2) 店内無断改装、営業種目の無断変更

(七) 控訴人らは、原告に左の事情が生じたときは、別段の催告を要せず、直ちに本件賃貸借契約を解除することができる。(第七項)

(1) 第三項の賃料の支払いを二回分遅滞したとき、及び第三項の更新料の支払いを怠ったとき

(2) 第六項の禁止行為のいずれかに違反する行為をしたとき

(八) 被控訴人が前項により控訴人から本件賃貸借契約を解除されたとき、又は第二項の賃貸期間満了により、本件賃貸借契約が終了したときは、控訴人らに対し、直ちに本件建物を原状に回復して明渡す。(第八項。以下「本件執行条項」という。)

(九) 被控訴人は右明渡につき控訴人らに対し、敷金清算金以外は如何なる理由によるも金銭上の請求をしない。(第九項)

8  右和解成立後、被控訴人は控訴人らに対し、礼金として金四〇〇万円を支払った。

9  被控訴人は、大石政博の指示により、昭和六一年三月ころから平成二年一二月ころまで、本件建物脇の通路部分において、テントを張り、花屋営業を行った。

10  控訴人雪子は、同年一月末日ころ、早坂に対し、口頭で、七月末には自分の方で使うようにしたいから本件建物を返してほしい旨を申し入れた。

11  亡光津は、平成元年五月六日ころ、控訴人らから本件建物の贈与を受け、賃貸人たる地位を承継した。

12  被控訴人は、本件和解による明渡しの強制執行をおそれて、平成二年五月一五日、本件執行条項による強制執行を許さない旨の判決を求める請求異議の訴えを当庁に提起、同月二三日、右訴訟は新宿簡易裁判所に移送された。

13  亡光津は、被控訴人に対し、平成二年一一月二八日、同日付反訴状をもって、被控訴人が本件建物脇での花屋営業をした行為は、前記和解条項第五項ないし第七項に該当することを理由に、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

14  被控訴人は、平成四年四月初めころより同年五月末ころまで、本件建物脇の通路において、提灯・調理台・机・椅子等の設備を置いて、おでん屋の営業を行った。

15  亡光津は、被控訴人に対し、平成四年五月二六日、被控訴人が花屋営業に引き続いて、おでん屋を営業した事実によって、本件賃貸借契約における信頼関係は破壊されたとして、重ねて本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

16  亡光津は平成五年一月八日に死亡し、同日、控訴人らは同人の子として相続した。

二争点1について

1  本件賃貸借契約の更新前契約にあたる昭和五七年契約(以下「五七年契約」という。)について検討する。

(一) 控訴人らは、五七年契約の締結時に四年間という賃貸期間が定められたのは、控訴人らが四年後に本件建物において洋書店営業を再開する具体的計画を有していたためであり、右のような事情は被控訴人側も了解していたものであるから、五七年契約は一時使用のためのものであると解すべきであると主張し、右一時使用の合意の存在を示す事情として、(1)右契約締結・更新がわざわざ起訴前和解の形式を取り、四年後の期間満了時に合意解除する旨の条項を設けたこと、(2)本件賃料は月三〇万円と比較的低額であることを挙げている。

(二) そこで右控訴人ら主張の当否について判断するに、契約締結にわざわざ起訴前和解という厳格な形式を取ったという事実に照らせば、控訴人らの側に四年後の建物返還を確実なものにしておきたいという希望があったことは容易に推察できるし、また、控訴人雪子が希望を早坂に伝え、同人がこれを了承した事実も認めることができる。

そうであるとすると、和解条項中には「一時使用」との語句は存在しないものの、当時、控訴人ら・被控訴人間においては、五七年契約を一時使用の目的のためのものとする旨の合意が存在したと認めるのが相当である。

(三) ところで、ある賃貸借契約を一時使用のためのものであると認めるためには、当事者間でその旨の合意が成立したというだけでは足りず、当該賃貸借契約に関し、例外的に借家法の適用を排除すべき客観的かつ合理的な理由があると認められる場合でなければならないと解するのが相当である。

したがって、五七年契約についても、それが一時使用のためのものであるか否かを判断するにあたっては、控訴人ら・被控訴人間の合意の内容のみならず、次のような事情をも十分に考慮しなければならない。

(1) 借主である被控訴人側の使用目的が、不動産仲介業の事務所として使用することであったこと。

本件の場合、被控訴人は他に有していた事務所を引き払って本件建物に事務所を移しているのであり、かなりの程度継続的な賃借をする必要性があったことが認められる。

(2) 控訴人らの側において、賃貸期間満了後の具体的・現実的な本件建物の利用計画を有していたわけではないこと。

(3) 本件契約時に被控訴人から控訴人らに対し交付された敷金の額が一一〇〇万円と比較的高額であるうえ、更新時には一割五分の償却が当然に認められていたこと。

(四) 以上の事実からすれば、被告が不動産業者である事実や、本件賃料が比較的低廉なものであったという事実を考慮するとしても、五七年契約を一時使用のためのものとして、借家法の適用を排除すべき合理的な理由を見出し得ない以上、五七年契約は、通常の賃貸借契約であったと解するのが相当である。

2  昭和六一年の合意について

(一) 控訴人らは右合意につき、更新という形式を採ったが、実際は期間満了による契約終了後の新たな賃貸借契約の締結である旨の主張をしている。

しかし、五七年契約を一時使用のための賃貸借契約と解することができないことは前述のとおりであるから、期間満了後も契約は当然に更新されるのであり(借家法二条一項)、特段の事情のない限り、右合意は、契約更新の合意であると解すべきである。

(二) そこで、本件賃貸借契約を更新した際、一時使用のための賃貸借に切り換えられたと認めるべき特段の事情が存するか否かを検討することとする。

控訴人らは、更新当時、実母である亡光津の病状が急変したため、本件建物での洋書店再開を断念せざるを得なかったという事情をもって、一時使用のための賃貸借であるとの評価を基盤づける事情として主張するがごとくである(亡光津の病状安定までの一時的措置であったとの意味であろう)。

ところで、控訴人らの右主張を是認するためには、前提として、当時、控訴人らが洋書店再開の具体的計画を有していたことが認められなければならないが、右のような計画の存在を認めることができないのは、昭和五七年当時と同様である。

他方、被控訴人側の継続使用の必要性は、更新時においても変わらず存在していたものと認められ、更新合意の際、被控訴人から控訴人らに対し礼金として金四〇〇万円が支払われている事情を勘案すれば、結局、更新後の本件賃貸借契約についても、これを一時使用のための賃貸借と認めるべき特段の事情は存しないものと解するのが相当である。

3  以上によれば、本件賃貸借契約は、五七年契約以降一貫して、一時使用のためのものでない通常の賃貸借契約であったと解されるから、借家法の適用があり、期間満了時に賃借人に明渡義務が発生する旨を定めた本件執行条項は、賃借人にとって不利な事項を定めたものとして、同法六条により無効であると言うべきである。

したがって、被控訴人の本件請求異議の訴えは理由がある。

三争点2(更新拒絶の正当事由の有無)について

1  控訴人らは、五七年契約及び本件賃貸借契約の更新にあたって、本件建物での洋書店の再開を理由にいずれも起訴前和解方式による賃貸借契約を締結した(前記認定)こと、控訴人稔が本件建物での洋書店を閉店してからも世田谷区松原の自宅を拠点にしてオートバイの宅配による洋書販売業を継続していたこと、同人は、平成二年七月当時は五三歳となり、オートバイによる宅配は体力的に危険な状態であり、同年一月の更新拒絶のころには、本件建物での洋書店営業を再開する必要が大きくなってきたこと等の事情が認められる(原審雪子証言・控訴人雪子、弁論の全趣旨)。

2  これに引き換え、被控訴人は、本件建物で不動産業を継続営業してきたものの、赤字の連続で営業成績は芳しくないこと、本件賃貸借契約を更新したころから本件建物の近隣において地上げが行われ、本件建物もその対象となった噂が被控訴人オーナーの大石政博に伝わり、高額の立退料を控訴人らに要求したりして、赤字状態の営業を不本意に継続しているものであることが十分に窺われ(原審における被控訴人代表者早坂及び控訴人雪子)、被控訴人にとって、本件建物で不動産業を継続して営業することの必要を認めるべき事情が存しないことは明らかである。

3  以上により、亡光津及び控訴人らの本件建物での洋書店の営業再開という自己使用の必要性と被控訴人の不動産業を継続する必要性とを比較考量したとき、亡光津及び控訴人らの自己使用の必要性の方がはるかに大きいことは明瞭であるから、亡光津の本件更新拒絶は有効であると解するのが相当である。

四争点3(信頼関係の破壊)について

右に述べたとおり亡光津の更新拒絶には正当事由が認められるから、本件賃貸借契約における信頼関係の破壊について判断する必要はないが、念のため次のとおり検討することとする。

1  前記認定のとおり、昭和五七年の契約締結時から平成四年五月二六日までの間において、被控訴人は花屋営業とおでん屋営業という二つの契約違反行為を行った事実が認められる。

右は本件建物を事務所として使用するという本件契約により定められた用法に明らかに反するものではあるが、個々の違反行為として見る限りにおいては、建物の造作等を著しく変更するものではなく、いずれも本件建物脇の通路を利用して行われており、その違反の程度はいずれも軽微であって、契約当事者間の信頼関係を破壊するには至らないものと言うことができる。

2  しかしながら、本件においては連続して二回にわたる用法違反が行われ、以下に述べるような特段の事情のあることをも考慮しなければならない。

すなわち、

(一) 平成四年のおでん屋営業は、控訴人らが、原審において用法違反(花屋営業等)による解除の主張をなした後になされたものであり、訴訟手続きの中で違反行為を慎むよう厳に要求されたにもかかわらず、再度、同種の違反行為に出たものであって違法性が極めて強く、かつ再発の恐れも強いと判断できる。

(二) 被控訴人は、代表取締役(ないし取締役)は形式上のものに過ぎず、実質的オーナーとして大石政博が君臨する形態の会社であり、右違反行為は、いずれも大石の独断で行われたものと認められ(原告代表者、被控訴人代表者)、かかる経営形態からすれば、今後、大石が同様の違反行為を犯す可能性が強く懸念される。

(三) 被控訴人が右違反行為に出る動機を検討するに、被控訴人において本来の不動産業の営業成績が芳しくないことから、周辺が飲屋の多い繁華街であるという本件建物の立地条件を利用した夜間営業を計画するに至ったものと認めることができる(原審における証人雪子・控訴人雪子、原告代表者、被控訴人代表者)。とすれば、営業成績改善の端緒すら認めることのできない現在、被控訴人が再度、同種の違反行為に出る可能性は極めて高いと言わなければならない。

3  以上によれば、個々の用法違反は軽微なものであっても、もはや控訴人、被控訴人間の本件賃貸借契約上の信頼関係は破壊されたものと認めるべき特段の事情があると判断するのが相当である。

とするならば、仮に平成二年八月以降、本件賃貸借契約が法定更新されたものと解しても、平成四年五月二六日の亡光津による解除の意思表示によって、本件賃貸借契約は終了したものということができる。

四以上、争点2及び3について判断した結果によれば、被控訴人の本件建物明渡請求はいずれの場合も理由がある。

なお、附帯請求たる賃料相当損害金の額については、昭和五七年から賃料が三〇万円のまま据え置かれた事実及び近隣の賃料相場(〈書証番号略〉及び被控訴人代表者の陳述)に照らし、一か月当たり金五〇万円と認めるのが相当である。

五結論

以上によれば、被控訴人の請求異議の訴え及び控訴人らの本件建物明渡請求についてはこれらを認容し、賃料相当損害金請求については、平成二年八月一日以降右明渡ずみまで一か月あたり五〇万円の限度で認容し、その余の控訴人らの請求は棄却すべきであるから、これと異なる原判決を右のとおり変更することとし、民事訴訟法九六条、九二条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官澤田三知夫 裁判官村田鋭治 裁判官早田尚貴)

別紙物件目録〈省略〉

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